2015年3月6日金曜日

『日蝕』 平野啓一郎  その4

さて、この物語はニコラというドミニコ会の僧侶が『ヘルメス選書』を探しにフィレンツェに赴く途中の村で錬金術を研究しているというピエェル・デュファイという男と出会うというのが話の本筋です。



ここでは世界史に疎い僕ですがこの作品で鍵を握るトマス・アクィナスについての多少の知識を前提としますので手持ちの数研出版から出ている『新世界史B』を参考にしたいと思います。
まずは前提となるドミニコ会とフランシスコ会について。


「13世紀初頭に結成されたフランチェスコ修道会やドミニコ教団などは修道院の財産所有を否定し、修道士の生活の基礎を托鉢行為に求めて、托鉢修道会(乞食僧団)と呼ばれた。フランチェスコ修道会は中部イタリアのアッシジAssisiのフランチェスコFrancescoの創始した修道会でドミニコ教団は、スペインのドミニクスDominicusが南フランスで組織した聖職者団体であって、ともに、当時ローマ教会を脅かしていた異端に対する対策として、ローマ教皇の指導の下に組織されたものである。」(『世界史B』)



ここに出てくる異端審問は『日蝕』において非常に重要な位置を占めます。錬金術を行うピエェル・デュファイなる者の異端性と関わってくるのです。



そしてトマス・アクィナスですが彼のことを簡潔にまとめた文章を引用します。


「パリ大学に所属したドミニコ学増トマス・アクィナスThomas Aquinasは、教父思想とアリストテレス哲学との統合、いいかえれば、キリスト教神学と古代哲学との折衷を図り、『神学大全』を著した。これは、イスラム思想に対するキリスト教学の弁論という性格の著述の形をとった中世キリスト教神学の体系化であり、中世哲学(スコラSchola哲学)の大成であった。」(同上)


トマスは師であるアルベルトゥス=マグヌスの指導を受けてアリストテレスについて学びました。上でも述べたとおり時代はドミニコ会とフランシスコ会が13世紀において精神的運動の担い手となります。ちなみに『日蝕』の舞台は15世紀のフランスです。ドミニコ会のイエス=キリストの福音に立ち帰り、それを宣べ伝えようとする運動が起こるのですが本作品においては普遍論争が終結し、唯名論が学界を席巻していることをニコラが嘆く下りがあります。



トマスはキリストの教えの純粋で、徹底した実践としての修道生活を人里離れた山中から、都市のなかに、民衆の間にもたらそうとしていました。「教える、説教する」ことを目的とする修道会が最高の段階だとトマスは『神学大全』において述べています。これが大きな流れとなって「トミズム」として開花します。



次回ではトマス主義者であるニコラが何故異端である錬金術に興味を持ったのかを検証するために当時の経済について考えてみたいと思います。


続く。

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